閉め切りから15年を越えた諫早湾干拓事業。この間に全面開門への行動をとらなかった行政のあり方は日本の悪しき仕組みの縮図といえるのではないでしょうか。さらに、問題解決を司法に判断をゆだねた結果、佐賀県も支持する有明海漁業者の訴えに福岡高裁が5年間の開門調査の実施を命じた判決を確定させたことに対し、長崎県も支持する諫早湾干拓農業者の開門差し止めの訴えに対し長崎地裁が開門差し止めの判決を下す、行政・司法を含めた泥仕合になってしまいました。

こうした悪しき仕組みの中で壊された環境をどう取り戻すのかは、そこに利害関係が生じない私たちが真剣に考えるべき重要な課題だと感じます。

孫子の兵法には
「人は死んだらよみがえらせることができないように 国も滅んだらよみがえらせることはできない」
とあります。同じように
「自然や農地もよみがえらせることはできない」
と感じます。だだし、奇跡を起こすことで自然をよみがえらせた事例はあります。

NHK・プロジェクトXで2001年3月に放送されたえりも岬に春を呼べにあるように、青い海を取り戻したいという人々の念いが一つになり、自然を復元させようとしたとき神仏の力で奇跡を起こすことができるのです。
NHKアーカイブス
プロジェクトX 一覧

諫早湾の堤防閉め切りの問題を言葉で「開門します」ということは簡単です。しかし、自然環境を元に戻す意欲が全ての人々にない中での開門は、自然を元に戻すことはできません。今の諫早湾干拓問題は、人々の欲望の中で議論が平行線をたどっています。こうした中で開門調査を行うことができても、有明海の豊かな海を元に戻すことはできないでしょう。

長崎県の人たちは、美しい海がそこにあることが当たり前のように考え、佐賀県の人たちは、耕作できる農地があるのは当たり前だと考えていることが平行線をたどる問題の要因としてあるのではとも感じるのです。

人々がもっと自然に敬意を払うようになり、有明海の美しい豊かな海を取り戻したいという気持ちが一つになったとき、諫早湾の潮受け堤防を開門する意義が生まれてくるのではないでしょうか。

有明海の再生事業は、20世紀の反省と21世紀への希望が重なったときに実現できる大事業になります。そんな大事業を人々の欲望と利害関係が渦巻く中で、スタートすることは困難です。自然を取り戻すためには、人々の啓発なしには取り組めません。

諫早湾干拓の遊水池には水鳥など新しい生態系が育まれています。開門すれば自然や有明海にとって全てうまくいくという時をすでに過ぎてしまっているのではないでしょうか。

この場所をどのような手法であれば地球が喜ぶ姿に変えられるのか。現地の漁業者とも議論を重ね、より良い結論を導き出す必要があります。 ここまで長引いた課題は、単純に「開門する・しない」の議論では片付けられないところへ来ています。

諫早湾干拓の問題ではネガティブな印象を与えている有明海ですが、一方では荒尾干潟が2012年に、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)の指定湿地に登録されました。これに続こうと佐賀市でも東与賀海岸をラムサール条約指定湿地としての登録を目指す活動が始まっています。

有明海をラムサール条約の登録地にしようとする流れは、夢の最終章「世界の人々がその美しさを求め足を運ぶ県にする」ことに通じる、自然と人間の共存共栄の理想像だと感じています。

東与賀海岸が登録されれば、佐賀県内の有明海全体に指定地を拡大していくことも可能になるでしょう。そうなると、水産資源はもちろん、農産物を含めた食料品全般にその効果を波及させることも可能になります。

有明海で積み重ねた経験を生かすことで伊万里湾の干潟でも、同じような人と自然の共生活動を広げていくことが可能になるでしょう。

今は対立が強調される海・有明海。その本来の姿である「和」を取り戻すためにも、佐賀県の海が観光資源として世界に認められるように取り組んでいく必要があると考えています。