町田アカデミーでは夏休みにグループ課題があります。私たちのグループはクラスの年長者から4人?グループで実施しました。7月中旬からの1ヶ月半、ショールームを廻ったり、文献を調べたり。
 で、昨日はその発表会でした。

(発表内容)
 私達のグループでは「靴を脱いで生活する国日本」。この特異な文化を床材の変遷から調べ、そこから将来のインテリアイメージを考えることをテーマに活動を始めました。
 床材を調べるために各個人で、木質系の床材メーカーのショールームを訪れ、素材の変遷を尋ねる一方、インターネットや文献を頼りに日本住宅の床材を調べていきました。文献調査をする中で、日本の住宅では畳の使われ方が大きな意味を持つことが分かりました。よく、
「畳は日本文化の象徴」
とか
「(日本人は)やっぱり畳が落ち着く」
といいます。しかし、日本の庶民が畳の上で生活した期間がどのくらいなのか、大変疑問に感じるところです。
 そこでテーマを畳を使ったインテリアイメージにずらしながら発表していきます。

 日本を始め、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど新石器時代の一般的な住宅は「竪穴式住居」でした。地面を数10センチ掘るこの方法は、大地の熱を感じて暮らすことの出来る当時としては最良(最適)なすまいだったと考えられます。
 ところが弥生時代に入り稲作が始まると、集落も農耕に適した低湿地帯へ移ります。ここで、地面を掘ると地下水が染み出してジメジメするので対策が必要です。そこで、地面を盛り上げて屋根をかける方法に変わってきます。
 この頃から古墳時代にかけて、収納としての高床式倉庫と、土間床と床上部分が共存する平地式住居が生まれています。平地式住居の床仕上げは定かではありません。
(土間に蓆敷き。一部に床貼りも)
 奈良時代になると、平城京などの都市では平地式住居が一般的になりますが、農村部では竪穴式住居のままです。
 平安時代には板張りの寝殿造りが登場します。寝殿が主人夫婦の居住空間でその回りの対(たい)の屋には娘の家族が住んでいることが多かった。女系制家族の名残のようです。その後、平安末期から中世にかけて小御所へと変わっていきます(機能はよく分からない・男子相続に変わってきた変化の現れ)。同時に、室礼による用途を変えて空間を使用する方法から、一部に座敷飾りを設けた用途限定に変化しています。
 室礼という一つの空間を儀式・行事から主人夫婦の日常生活まで模様替えによって行うことは、履き替えの習慣を持つことが重要な意味をなしています。履き替えは朝鮮半島やイスラム圏の一部にしかない文化です。日本人は伊勢神宮を20年ごとに白木の檜で建て替えるなど、とりわけ白木に対して特別なこだわりを持っていたようです。大切にしている白木の上を土足で歩いたとは考えられません。このことから、履き替えは寝殿に床貼りした、平安時代から1000年以上に渡って続けられた文化だと考えられます。
 土足のまま家の中へ出入りすると椅子やベッドなどの家具が必要となります。室礼による空間機能を自由に使い分けることも難しくなります。履き替えることで、どこにでも座れ、どこにでも寝ることが出来る。膳を並べて食べることも出来るという事になります。

 さて畳ですが、はじめから床材だったわけではなさそうです。奈良時代には、革や絹など薄いものを何枚か重ねて縫い込んだものを全て畳と呼んでいたようです。また、椅子やベッドのような座具であり寝具でもありました。
 これが平安時代になると、藺草の畳表と藁床に固定された、縦横比2:1のものになっています。
 畳は西洋の椅子と同様に身分を表すものとされ、身分の高い人ほど大きな畳に、そして重ねて座り、低いと小さな畳、そして板の上に直接座るようになっていました。
 また、縁は天皇や上皇は繧繝縁(うんげんべり)という花模様の錦が用いられ、親王や大臣は高麗縁(こうらいべり)という白地に花紋を黒く織り出したもの、公家はこの紋の小さいもの、さらに下ると無地の紫や黄色の縁と決まっていたようです。
 身分を表すものですから、畳を使えた人も一部に限られ、庶民が使うようになったのは、江戸半ばから明治にはいってからと考えた方が良さそうです。そう考えると
「畳は日本の文化」
と考えるより、
「日本人は畳にあこがれた文化人」
と考えた方が良さそうです。

 ところが、庶民に畳が広がり始めた明治になると、西洋文化が導入され、家具が多く入ってきました。とはいえ昭和30年代、庶民の家具はタンスや食器棚、さらに高価な家電製品しか浮かんできません。
 しかし、ベッドや椅子といった家具に価値観を持つヨーロッパ文化が入ってくると、畳では不便に感じます。1980年代になるとフローリングの部屋が増えてきました。椅子を使い、ベッドを置く。このことは同時に畳の部屋の衰退と、杉、檜といった日本の針葉樹から、ナラ、サクラ、チークといった硬い広葉樹へとニーズが変わるきっかけにもなったようです。
 とはいえ多くの西洋文化が入ってきた現在でも、日本の「畳」というものは、日本人の私たちにとって、癒しの空間・素材としてこれからもなくすことの出来ないものだと思います。
 しかし、現在の住宅事情、つまり和室を作れないローコスト住宅の増加、マンションや限られたスペースに建つ狭小住宅という現実を考えると、普段あまり使うことのない和室を1部屋作るということよりも、これからは限られた空間の中に「畳のある空間を作る」ようになるのではと考えました。
 そこで私たちは、畳を床材としてではなく家具として捉えてみることにしました。過去に座具や寝具などの高級調度品として扱われた時代もあり、畳を好きな場所に、好きな形で置くことの出来る「移動できる畳」としました。また、畳を使わないときは重ねて置けば収納として使える家具になるのです。
 今回提案しています資料はシンプルなものですが、西洋(で考える)家具と同様(の位置づけとして考えるならば)、アートのように描けばシンプルなお部屋にも使えるおもしろいデザインになるでしょう。畳に家紋を入れれば代々受け継いでいくようなものとして、また、婚礼家具のように女性が嫁ぎ先へ自分のお気に入りの畳を持ち込むようになれば、新たな伝統が生まれるきっかけにもと考えます。実際は数年に一度張り替える必要も生じると思われますが、次はこんな柄にしようとか、こんな色にしようとか、置く場所によって「畳を選ぶ時代」が生まれるのではと考えました。

 「室礼に併せて畳をアレンジ」
 「人生を共に歩む畳」
 私たちのグループではこのような畳の使い方を提唱する事として、発表をまとめさせて頂きます。

という内容です。写真や資料は明日のブログで。